希代の名優 樹木希林


「おごらず、人と比べず, 面白がって平気に生きれば良い」 先日74歳で逝去された樹木希林さんが生前、日々自分に言い聞かせ生きぬいた心情である。
高倉健裕次郎吉永小百合,昭和の大スター以上に彼女はスクリーンの中でいぶし銀の様な鈍光を放ち、寡黙な演技で存在感を示した、彼女ほど主役を引き立て乍、映画の世界を現実的なものに変換した俳優は多分いないのではないか、役者を感じさせない役者だった。
そして彼女ほど脇役でありながらファンを持っていた女優もいない。
最近の出演作「あん」「万引き家族」の彼女はヨボヨボ婆さん役だが凄味さえ感じた。
たぶん彼女の内なる部分で台詞、所作以上の演技を演技を超えて自然体で見せて呉れたからであろう、自然体で出来れば演技でなくなる、役と一体になり役の中の人物になり、ドラマを現実と受け止めその中に生活する。
多分彼女は混然一体とした世界の中で生きていたのではないかと想像する。
彼女の残した言葉の数々も簡単明瞭でごく普通、当たり前の事を言ってのけただけではあるが、その通りの事を軽く自然体で対処している、言行一致、気張らず黙々と今日まで生きて来た内側にあらゆる事柄を面白がっていたとは、天晴れとしか言いようがない。

希代の名優、希代の処世人とは彼女のような人物か、処世術とは世渡りが上手で如才のない人間を指すが、本物の処世人は自分を曝し何事にも執着せず、最善を尽くし結果を良しとする人間「裏を返せば世渡り下手」だが自分に忠実、無欲無心の言動故に相手からも理解される。
樹木希林さんは私から見ればそんな風に見えた空気の中の酸素のような人であった。