男はつらいよ


86才になった山田洋二監督が「不朽の名作 男はつらいよ」の制作に取り掛かっている。
寅さん没後「22年」最初のメガホンを持ってから50年の節目になると云う、山田洋二監督にすれば国民的アイドル寅さんを遺作にする覚悟で「あの世の寅さん」をスクリーンに復活させたのではなかろうか。
寅さんは「天衣無縫」な挙動で笑いと涙、人情をテーマに正月映画に欠かせない映画であった。
「顔で笑って、心で泣く・・・」男のつらさをコミカルに演じ人々の共感を得、日本人の原点、庶民の代役になって呉れた。
寅さんファンで特筆すべきは学識有識者、学究者等アカデミックな人々が多かった事である、無学凡才の主人公「寅さん」は彼等と住む世界の異なる「異邦人」に映ったのではないか、和製ドン・キホーテの寅さんは風まかせ気ままに生きる「フーテン」。
人間の憧れの中に「放浪性」があるのではないか、思い起こせば「生きている内にしておけば良かった10の事」全てを寅さんはスクリーンの中で体現している。
「男のつらさ」も「女のつらさ」も本質的には同じ場面で本当の辛さを感じるのではなかろうか。
息子さんに先立たれた友人が「子供に先立たれることほど、苦しく辛い事はない」と言われたが、切実に共感できる。
金銭的な事、物理的損失、信頼関係の喪失、離縁、別離など辛い事は枚挙を厭わないが、本当に辛い事はそうそう沢山ある訳ではない。
辛いことの解消法はどうしたら良いのか、難しい問題だが心の持ち方しかないのではないか、宗教が支持されるのは多分、その部分に対応しているからだろう。
喜劇「寅さんシリーズ」だが「人生とは、何ぞやと」語りかけてくる映画でもある。
私も人生体験は多分、人の2倍ぐらい積んできたが真の辛さは体験していない、「苦労」は買ってでもせよ、というが「辛さ」は異質のものである。
余命も残りが少なくなった今、出来れば避けて通りたいものだ。